公共工事の入札制度は複雑で、希望すれば誰でも簡単に入札に参加できるというものではありません。
一連の手続きを経て、算出された評価点をもとに自治体ごとにランク付けされ、入札参加資格を得た状態になってはじめて入札に参加できます。
中でも経営事項審査は評価点を決める中心的な手続きであり、重要な役割を担っています。
経営事項審査の全体像を理解することで手続きの流れや実務上やらなければならないことが見えてきます。
この記事でわかりやすく解説していますので、ぜひご参考にしていただければと思います。
▼目次
(1)決算変更届の実務
(2)経営状況分析申請の実務
(3)経営規模等評価申請の実務
5.最後に
経営事項審査とは?
経営事項審査とは、元請として公共工事入札を希望する建設業者が受けなければならない審査です。
審査によって、経営状況や経営規模が客観的に評価され、点数化されます。その点数を総合評定値(P点)と呼びます。
建設業者は総合評定値(P点)を取得して、公共工事の発注者に提出します。
公共工事の発注者は、提出された総合評定値(P点)に独自の評価を加えて総合点数を出し、建設業者をランク付けします。
建設業者は、そのランクに応じた規模の工事に入札できるようになります。
経営事項審査を受けるには、大前提として建設業許可を取得している必要があり、許可業者の義務である決算変更届も必ず提出していなければなりません。
なぜ経営事項審査を公共工事入札前に受けなければならないのか
経営事項審査の概要や位置づけは上記の通りです。では、そもそもなぜ入札を希望する建設業者は入札前に経営事項審査を受けなければならないのでしょうか。
理由は大きく3つあります。発注者である国や都道府県等からの視点です。
〈理由①〉 建設業者の規模・業種に見合った工事を発注するために客観的評価が必要だから
〈理由②〉 発注先の工期中倒産といったリスクを避けるために事前に経営状態を見極めたいから
〈理由③〉 発注先の施工能力不足による施工不良・不能をなくすために事前に技術力・経験を見極めたいから
公共工事とは税金を使った工事なので、国や都道府県からすると発注先を慎重に審査するのは当然のことだと思います。
経営事項審査の仕組み
経営事項審査は、経営状況分析申請と経営規模等評価申請から成り立っています。
この2つの評点から総合評定値(P点)が算出されます。決算変更届の提出資料(財務諸表や工事経歴書)は重要指標として使用されます。それぞれの位置づけと申請の流れを解説します。
◎経営状況分析とは何を評価するものなのか
経営状況分析とは、名称の通り建設業者の経営状況を分析・評価するためのもので、財務諸表をもとに審査項目ごとの算式に数値をあてはめて評点を出します。この評点をY点といいます。
審査項目は以下の通りです。
経営状況(Y)
・純支払利息比率
・負債回転期間
・売上高経常利益率
・総資本売上総利益率
・自己資本対固定資産比率
・自己資本比率
・営業キャッシュフロー
・利益剰余金
◎経営規模等評価とは何を評価するものなのか
経営規模等評価とは、建設業者の経営規模や技術力、社会性を評価するものです。
審査項目は以下の通りです。
経営規模(X1)
・年間平均完成工事高
経営規模(X2)
・自己資本額
・平均利益額
技術力(Z)
・技術職員数
・元請完成工事高
社会性等(W)
・労働福祉の状況
・建設業の営業継続の状況
・防災活動への貢献の状況
・法令遵守の状況
・建設業の経理の状況
・研究開発の状況
・建設機械の保有状況
・国際標準化機構が定めた規格による登録の状況
・若年の技術者及び技能労働者の育成及び確保の状況
・新規若年技術職員の育成及び確保の状況
・知識及び技術又は技能の向上に関する取り組みの状況
総合評定値の算式は以下の通りです。
総合評定値(P点)=(X1)×0.25+(X2)×0.15+(Y)×0.20+(Z)×0.25+(W)×0.15
◎経営事項審査、公共工事入札のスケジュール
7月末決算の会社を想定したモデルスケジュールです。
注意点は、総合評定値(P点)通知書には1年7ヵ月という有効期限があり、次年度の総合評定値(P点)通知書を取得するタイミングによって空白期間ができてしまうということです。空白期間ができないように毎年度余裕をもったスケジュールで進めなければなりません。
決算変更届・経営事項審査の必要書類や実務上のポイント
決算変更届、経営状況分析申請、経営規模等評価申請はどのような書類をどこに提出するのか、実務上の重要なポイントと具体的な手続きについて解説します。
◎決算変更届の実務
決算変更届はすべての建設業許可業者に課せられた義務です。
決算終了後4ヵ月以内に建設業財務諸表、工事経歴書等を許可行政庁に提出しなければなりません。
経営状況分析では決算変更届で提出した建設業財務諸表を用いて評点を算出します。
また経営規模等評価においても決算変更届で提出した工事経歴書や業種別完成工事高の数値がそのまま活用されます。
【決算変更届の提出書類】
・変更届出書(都道府県により異なる)
・工事経歴書(様式第2号)
・直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)
・貸借対照表(様式第15号)
・損益計算書・完成工事原価報告書(様式第16号)
・株主資本等変動計算書(様式第17号)
・注記表(様式第17号の2)
・附属明細表(様式第17号の3)※資本金1億円以上または負債総額200億円以上の株式会社のみ
・事業報告書(任意様式)※株式会社のみ
・納税証明書
・使用人数(様式第4号)※変更があった場合のみ
・建設業法施行令第3条に規定する使用人の一覧表(様式第11号)※変更があった場合のみ
・定款 ※変更があった場合のみ
・健康保険等の加入状況(様式第7号の3)※変更があった場合のみ
工事経歴書の書き方については別記事で詳しく解説していますので、ご参考いただければと思います。
◎経営状況分析申請の実務
経営状況分析は決算報告が完了次第、決算変更届と並行して進めなければなりません。
実務上は決算変更届よりも先に進めることが多くなります。
経営状況分析の結果は通知書(Y点)として受け取り、次の経営規模等評価申請で使用します。
経営状況分析は民間の分析機関に申請することになっています。
現在登録されている分析機関は10箇所ありますが、どこを選んでも構いません。
【経営状況分析申請の主な必要書類】
・経営状況分析申請書 (分析機関によって異なる)
・貸借対照表(様式第15号)※決算変更届と同じものを使用
・損益計算書・完成工事原価報告書(様式第16号)※決算変更届と同じものを使用
・株主資本等変動計算書(様式第17号)※決算変更届と同じものを使用
・注記表(様式第17号の2)※決算変更届と同じものを使用
・確定申告書 別表16(1)(2)(4)(7)(8)
・建設業許可通知書
◎経営規模等評価申請の実務
経営規模等評価申請は事前の予約が必要です。FAXや窓口等、予約方法は申請先行政庁によって異なります。
申請先行政庁は許可行政庁と同じです。
約1ヵ月(行政庁によって異なる)の審査期間を経て、総合評定値(P点)通知書を取得します。
総合評定値(P点)通知書には有効期限があるので、モデルスケジュールで示したように決算日から5ヵ月以内には経営規模等評価申請ができるように進めた方が良いでしょう。
【経営規模等評価申請の主な必要書類】
(提出書類)
・経営規模等評価申請・総合評定値請求書(様式第25号の14)
・工事種類別完成工事高・工事種類別元請完成工事高(様式第25号の14別紙1)
・技術職員名簿(様式第25号の14別紙2)
・技術職員のうち国家資格者の免状等
・技術職員名簿に記載の職員の在籍状況確認書類
・その他審査項目(社会性等)(様式第25号の14別紙3)
・工事経歴書(様式第2号)※決算変更届と同じものを使用
・工事経歴書に記載した工事の請負契約書または注文書・請書の写し(業種ごとに記載上位3件分)
・経営状況分析結果通知書の原本
(提示書類)
・建設業許可通知書
・建設業許可申請書の副本
・決算変更届副本
・変更届副本
・経営規模等評価申請書副本及び経営規模等結果通知書(前期分)
・確定申告書控一式
・納税証明書
・その他審査項目に係る各種証明書類(社会保険・雇用保険確認書類、建退共など)
最後に
公共工事入札参加に至るまでの決算変更届、経営状況分析申請、経営規模等評価申請、入札参加資格審査申請という一連の流れは準備するものも多く、業務多忙な時期に対応するのは難しく感じるかもしれません。
しかも、ただ手続きをすればよいというものでもなく、どの業種でどの程度の規模でどこの工事を中心に落札したいという目標を明確にして、期中から準備しておかなければなりません。
自社の施工能力に見合ったランク付けがされなければ、公共工事入札参加のメリットを最大化できなくなってしまいます。
手続きについて不安な方は、建設業許可を専門としている行政書士事務所に相談されてみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者 金本 龍二(かねもと りゅうじ)|行政書士 アールエム行政書士事務所の代表・行政書士。事業会社で店舗開発に従事。 ディベロッパーや建設業者との契約交渉・工事発注に数多く携わる。その後、行政書士事務所を開設。 建設業専門の事務所として 近畿圏内の知事許可、大臣許可、経営事項審査、 建設キャリアアップシステムをサポート。 |
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