コロナ禍でウッドショック(木材の価格高騰)が起こり、アイアンショック(鋼材の価格高騰)、ウクライナ危機と続き、追い打ちをかけるかのように現在の円安が合わさり、あらゆる建築資材価格の高騰が深刻化しています。
原油価格や人件費も騰がっており、物価高の影響は建設業に限ったものではありませんが、消費者(発注者)への価格転嫁が思うように進んでいない業種の1つです。全産業の平均よりも低い価格転嫁率となっています。
もはや建設業者の企業努力だけではどうにもならない状況です。
この厳しい環境において関係者それぞれがどのような対応をしていくべきなのでしょうか。
▼目次
(2)建設業者の現状
(3)請負契約と約款の関係
4.最後に
資材価格高騰で起こっていること
当初73億円と見込まれていた関西万博の「大阪パビリオン」の建設費が、資材価格高騰の影響を受け115億円になるとの報道がありました。初回見積りは195億円で、そこから使用する材料の変更などを行って減額したものの、当初見込みを40億円近く超える結果になったようです。このようなことが今の建設業界では日常的なものとなっています。
◎どれくらい騰がっているのか
様々な要因が複合的に影響し、建設資材価格は全般的に高騰しています。
(出典:日本建設業連合会)
◎建設業者の現状
関西万博の例のように、材料・仕様の変更を行うことでVEしたり、そもそも発注者(この場合、大阪市)に価格転嫁できているのであれば、建設業者のダメージはありませんが、民間発注者から請け負った場合はそうもいきません。
工期中の数カ月の間に大きく変動するような場合はなおさら、民間発注者に請負金額の変更を受け入れてもらうのが難しいでしょう。
帝国データバンクの発表によると、仕入れ価格上昇と値上げ難(価格転嫁できない)により収益悪化して倒産した企業を「物価高倒産」と定義して集計した結果、2022年4月-9月で159件と増加傾向にあるようです。その内、40件が建設業で約25%を占めています。
価格転嫁できずに利益が圧縮されていくと、特に中小零細企業は経営が厳しくなってくるでしょう。
発注者、建設業者はどのような対応を行っているのか
業界を取り巻く環境は厳しさを増すばかりで、好転の兆しがなかなか見えてきません。
そのような状況下で、建設業者は現状どのような対応を行っているのか。国土交通省が行ったヒアリング調査から実情がうかがえます。
◎資材や原油の価格高騰による影響確認に係るヒアリング調査
「令和3年度 資材や原油の価格高騰による影響確認に係るヒアリング調査について」(国土交通省)から抜粋・編集しています。
●調査対象事業者
完成工事高上位の建設業者
●調査対象工事
公共工事・民間工事問わず全て
・物価等の変動に基づく、契約変更条項の有無(建設業者・発注者間)
調査対象事業者の8割程度は物価変動に関する条項が含まれていると回答。
公共工事においては、約款にある通り、物価変動に関する条項が含まれている。
一方、民間工事は発注者と交渉しても認めてもらえず、契約書に条項を入れられないこともある。物価変動リスクは請負者(建設業者)が負担するものだという考えが根強い。
・建設業者から発注者への契約金額変更の申出状況
予定も含めると調査対象事業者の約8割が申出を行っている。残りの、申出を行う予定がない事業者は、契約条項には含まれているものの、通例として契約変更していなかったり、発注者の理解を得るのが難しいから行っていないことが多い。
・建設業者が契約金額変更を申し出たときの発注者の受入状況
発注者に受け入れてもらえると回答した割合は6割程度。受け入れてもらえないと回答した調査対象事業者は、協議自体は行うものの、理解してもらえなかったり、理解してもらっても契約金額変更にまでは至らないとのこと。
・建設業者が契約金額変更を申し出たときの公共・民間での対応の違い
調査対象事業者の約8割が公共と民間での対応の違いを感じている。事業収支、投資回収ありきの民間工事では契約金額変更は認められないことが多い。そして、「物価変動リスクは請負者負担」という考えが根強い。
・物価等の変動に基づく、契約変更条項の有無(元請・下請間)
調査対象事業者の9割が物価変動に関する条項を含めて下請と契約を締結している。
残りの1割は、その都度協議をしていたり、資材提供をしているのでそもそも影響が少ない。
・下請からの価格高騰の相談受付状況
調査対象事業者の8割程度が価格高騰に関する相談を受けている。
・下請からの価格高騰の相談に対する受入状況
調査対象事業者の8割程度が価格高騰による影響を考慮した契約変更を行っている。
発注者から価格高騰による契約変更を受け入れてもらえないため、下請けからの申出にも応えづらい。
・下請から申出があった場合の発注者への相談の有無
調査対象事業者の7割程度が、下請業者から申出があった場合には発注者に相談している。
民間発注者、建設業者それぞれに求められること
上記のヒアリング調査結果からも民間発注者、建設業者それぞれがどのような対応をすべきかが見えてきます。
当事者間の請負契約をどのようにしていくのか、価格高騰があったときの申出と受入をどう捉えるのかがポイントになります。
◎適正な価格転嫁、工期の確保を盛り込んだ契約締結
政府主導で資材価格高騰への対策が継続的に議論されています。特に民間工事における取引適正化が重要視されています。
建設業者は直近の資材価格及び資材調達状況を反映した見積を行い、見積を提出した後も契約締結までに資材価格高騰が見られる場合は契約金額や工期に適切に反映させ、民間発注者はそれに理解を示し、適正な価格転嫁や工期の確保を受け入れることが求められます。
お願いベースではありますが、政府からも通知が出されています。
◎民間建設工事標準請負契約約款を活用した契約締結
1年以上の長期間の工事の場合、工期中に資材価格や調達の状況が大きく変動することがあります。それを見積提出時や契約締結時に正確に予測することはできません。
公共工事では公共工事標準請負契約約款にスライド条項が定められていて実際に工期中に資材価格が高騰した場合、それが適用されています。
民間工事でも中央建設業審議会が出している民間建設工事標準請負契約約款には同様にスライド条項が定められていますが、契約条項には反映されていなかったり、契約条項に定められても形骸化して、実際に建設業者が発注者に対して契約金額変更申出をしなかったり、申出をしても受け入れられなかってりしています。
まずは、発注者・建設業者双方が民間建設工事標準請負契約約款を活用した契約締結を当たり前にすることが必要です。実際に工期中に資材価格が大きく変動したり、納期遅れがあったときは建設業者は漏れなく発注者に対して申出を行い、発注者は理解し、受け入れることが求められます。
◎請負契約と約款の関係
そもそも請負とは、仕事の完成と報酬の支払いを相互に約束する契約のことです。
本来、対等な立場であるべきですが、建設工事の請負契約においては発注者側が優位になることがほとんどです。
そのような片務性を解消したり、契約関係を明確化・適正化させるために建設業法には建設工事の請負契約の定義や契約成立等に関する条項が定められています。
定義:委託その他異なる名称を使用した契約であったとしても、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は請負契約とみなされます。
契約の成立:民法上は双方の合意のみ、口約束でも契約が成立します。しかし、当事者間の権利義務関係を明確にするために建設業法には一定の重要事項を記載した書面をお互いに交わすことが義務付けられています。
(建設工事の請負契約の内容)
第19条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従って、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
1 工事内容
2 請負代金の額
3 工事着手の時期及び工事完成の時期
4 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
5 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするとき は、その支払の時期及び方法
6 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
7 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
8 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
9 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
10 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
11 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
12 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
13 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
14 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
15 契約に関する紛争の解決方法
16 その他国土交通省令で定める事項
(引用:e-GOV法令検索)
契約はあくまでも個別交渉の上で成り立つもので、約款は一般に不特定多数を想定した定型的なものとなります。
標準請負契約約款は、請負契約の片務性解消と契約関係の明確化・適正化のため、権利義務関係の内容を律するものとして中央建設業審議会が作成し、実施を勧告しているものです。
公共工事標準請負契約約款、民間建設工事標準請負契約約款(乙)、民間建設工事標準請負契約約款(甲)、建設工事標準下請契約約款の4種類があります。
民間の(乙)は小規模工事、民間の(甲)は大規模工事という区分けになります。
最後に
民間発注者が事業収支や投資回収を第一に考えるのは当然のことなので、資材価格高騰した分の価格転嫁を民間発注者にすべて受け入れてもらうのは難しいかもしれません。
しかし、請け負う側の建設業者が物価変動のリスクを吸収しなければらないという考えも是正していく必要があります。
新型コロナウィルス、ウッドショック、アイアンショック、空前の円安と過去経験したことのないほどの状況なので、関係者それぞれが協力しあうことが大切なのだと思います。発注者側が事業計画の見直しや柔軟な設計変更などを積極的に検討する時期に来ているのかもしれません。
この記事は行政書士が執筆・監修しています。 アールエム行政書士事務所/代表/金本 龍二(かねもと りゅうじ) 本記事は建設業に特化した事務所の行政書士が執筆・監修しています。 行政書士の詳しいプロフィールはこちら |
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