建設業財務諸表の中で書き方も意味もよくわからないという意見が多いのが注記表です。
許可申請の際には他の財務諸表とともに必ず提出しなければなりません。
建設業財務諸表の1つなので、毎年の決算変更届の際にも提出が必要になります。
大企業のみではありますが、2021年から新収益認識基準が適用され、工事進行基準が廃止されています。(中小企業等は「中小企業の会計に関する基本要領」をベースにしているので、従来通り工事進行基準を採用することが可能です。)これに伴い、2022年4月から注記表をはじめとする財務諸表の様式が一部変更されていますが、自治体によっては従来の様式でも受付してもらえます。(2022年9月時点)
この記事では注記表の書き方や注意点を解説しています。
ぜひご参考いただければと思います。
| 注記表とは何のための書類なのか
貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計算書等を正しく読み取れるように重要な補足事項を記載する書類です。例えば、固定資産の減価償却の方法や消費税の処理の方法など。
もともとは貸借対照表や損益計算書に注記事項を記載するという決まりでしたが、その他の注記項目が増えてきたため、注記表という1つの書類として独立しました。
作成義務は法人のみです。
| 注記表の記載事項
貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、それぞれに関連する注記事項はそれぞれの計算書の末尾に記載することができます。この場合は注記表の該当箇所への記載は不要になります。
【記載事項一覧】
1.継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況
2.重要な会計方針
3.会計方針の変更
4.表示方法の変更
4-2.会計上の見積り
5.会計上の見積りの変更
6.誤謬の訂正
7.貸借対照表関係
8.損益計算書関係
9.株主資本等変動計算書関係
10.税効果会計
11.リースにより使用する固定資産
12.金融商品関係
13.賃貸等不動産関係
14.関連当事者との取引
15.一株当たり情報
16.重要な後発事象
17.連結配当規制適用の有無
17-2.収益認識関係
18.その他
| 注記表の記載要領と注意点
1.継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況
決算日において、財務状況の悪化等で会社が将来にわたって事業を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、次に掲げる事項を記載します。
①当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
②当該事象又は状況を解消し、又は改善をするための対応策
③当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
④当該重要な不確実性の影響を貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書関係及び注記表に反映しているか否かの別
2.重要な会計方針
計算書類の作成にあたって採用している会計処理の原則、手続き、表示方法を記載します。
(1)資産の評価基準及び評価方法
評価基準としては、原価法が原則とされているので、たな卸資産について簿価切り下げの方法をとっていたり、有価証券について時価法や償却原価法を適用している場合には注記が必要になります。
評価方法としては、たな卸資産は先入先出法、総平均法、移動平均法、個別法等があり、有価証券は移動平均法、総平均法があり、選択しているものを記載します。
(2)固定資産の減価償却の方法
有形固定資産の償却方法について、定率法か定額法か、採用している方法を記載します。
無形固定資産については、原則、定額法になります。
(3)引当金の計上基準
貸倒引当金、完成工事補償引当金、工事損失引当金、退職給付引当金等、金額的に重要な引当金について計上理由と計算の基礎を記載します。
(4)収益及び費用の計上基準
完成工事高及び完成工事原価の認識基準、決算日における工事進捗を見積もるために用いた方法その他の収益及び費用の計上基準について記載します。
(5)消費税及び地方消費税に相当する額の会計処理の方法
税抜又は税込いずれの方式を採用しているのかを記載します。
経営事項審査を受ける場合は、税抜方式を採用しなければなりません。
(6)その他、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表作成のための基本となる重要な事項
繰延資産の処理方法、リース取引の処理方法等で重要性がある場合には記載します。
3.会計方針の変更
変更内容は一般的に公正妥当と認められるものに限ります。
内容や理由、影響額等を記載しなければなりません。
4.表示方法の変更
変更内容は一般的に公正妥当と認められるものに限ります。
変更の内容と理由を記載しなければなりません。
4-2.会計上の見積り
翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のあるものに関して記載します。
5.会計上の見積りの変更
変更の内容や影響額等を記載しなければなりません。
6.誤謬の訂正
誤謬の訂正をした場合に誤謬の内容と期首純資産への影響額を記載します。
7.貸借対照表関係
(1) 担保に供している資産及び担保付債務
勘定科目別に記載します。
(2) 保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務等の内容及び金額
種類別に総額を記載します。
(3) 関係会社に対する短期金銭債権及び長期金銭債権並びに短期金銭債務及び長期金銭債務
総額を記載し、関係会社別の金額は記載する必要ありません。
(4) 取締役、監査役及び執行役との間の取引による取締役、監査役及び執行役に対する金銭債権及び金銭債務
総額を記載し、取締役、監査役又は執行役別の金額は記載する必要ありません。
(5) 親会社株式の各表示区分別の金額
貸借対照表に区分掲記している場合は記載する必要ありません。
(6) 工事損失引当金に対応する未成工事支出金の金額
8.損益計算書関係
(1) 売上高のうち関係会社に対する部分
総額を記載し、関係会社別の金額は記載する必要ありません。
(2) 売上原価のうち関係会社からの仕入高
総額を記載し、関係会社別の金額は記載する必要ありません。
(3) 売上原価のうち工事損失引当金繰入額
総額を記載し、関係会社別の金額は記載する必要ありません。
(4) 関係会社との営業取引以外の取引高
(5) 研究開発費の総額(会計監査人を設置している会社に限る。)
9.株主資本等変動計算書
(1) 事業年度末日における発行済株式の種類及び数
(2) 事業年度末日における自己株式の種類及び数
(3) 剰余金の配当
事業年度中に行った剰余金の配当について、配当を実施した回ごとに、決議機関、配当総額、一株当たりの配当額、基準日及び効力発生日について記載します。
(4) 事業年度末において発行している新株予約権の目的となる株式の種類及び数
10.税効果会計
繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因を定性的に記載します。
11.リースにより使用する固定資産
ファイナンスリース取引について、通用の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行っていない場合に、リース取引により使用する重要な固定資産について、その資産の内容を定性的に記載します。
12.金融商品関係
(1) 金融商品の状況(定性的情報)
内容及びリスクや取り組み方針等について記載します。
(2) 金融商品の時価等(定量的情報)
時価の算定方法等について記載します。
13.賃貸等不動産関係
(1) 賃貸等不動産の状況(定性的情報)
概要について記載します。
(2) 賃貸等不動産の時価(定量的情報)
時価及び時価の算定方法等を記載します。
14.関連当事者との取引
取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、役員に対する報酬等の給付、取引条件が公正な価格を勘案して決定していることが明白な取引は記載を省略することができます。
15.一株当たり情報
(1) 一株当たりの純資産額
貸借対照表の純資産の部の合計額から新株予約権等の控除する金額を差し引きした金額を、期末の普通株式の発行済株式数から期末の普通株式の自己株式数を控除した株式数で割って計算します。
(2) 一株当たりの当期純利益又は当期純損失
普通株式に係る当期純利益の金額を、期中平均発行済株式数から期中平均自己株式数を控除した株式数で割って計算します。
16.重要な後発事象
事業年度の末日後、翌事業年度以降の財産又は損益に重要な影響を及ぼす事象が発生した場合における事象を記載します。具体的には、火災等による重大な損害の発生や会社の合併・営業譲渡などが該当します。
17.連結配当規制適用の有無
配当規制を適用する場合にその旨を記載します。
17-2.収益認識関係
契約に基づく義務の履行の状況に応じて生ずる収益を認識する場合に注記を記載します。
18.その他
1~17-2までに掲げた事項のほか、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書により会社の財産または損益の状態を正確に判断する為に必要な事項を記載します。
| 注記表の記載例
| 最後に
以上、注記表について解説いたしました。
財務諸表全般、苦手意識を持たれている方が多いように感じます。
まずは記載例などを見ながら実際に計算書類を作成し、計算書類同士の数字の繋がりや重要事項の意味を徐々に理解していくのが良いでしょう。
当事務所では建設業許可の申請代理を承っております。
大阪市鶴見区・城東区・都島区・旭区を中心に大阪府全域、奈良県、兵庫県、和歌山県は標準対応エリアです。
迅速にご対応いたします。その他地域の方もお気軽にご相談ください。
ご相談はお問合せフォームからお願いいたします。
Comments