建設業許可を受けた行政庁で経営事項審査を受審し、算出された総合評定値(P点)をもとに各官公庁に入札参加資格申請・登録を行うことで、はじめて公共工事入札のスタートラインに立つことができます。
入札に参加できる工事のランク(規模)は、総合評定値(P点)に官公庁ごとの独自点数を加算した合計点で決定されます。この点数をコントロールできるに越したことはありません。
あらかじめ必要な総合評定値(P点)を把握すること、総合評定値(P点)算出の仕組みを理解すること、評価項目を取捨選択し計画的に取り組みを行うこと、この3つが点数をコントロールする上で抑えるべきポイントといえるでしょう。
▼目次
4.最後に
入札に参加したい官公庁を決めて工事ランクと必要評点を確認する
まず第一に明確な目標設定が重要となります。
ただ単に公共工事を受注したいといった漠然とした目標だと目指すべき点数が見えてこず、正しい方向に向かっているのかすらわかりません。
どの官公庁でどの業種のどのくらいの規模の公共工事を受注したいのかをはっきりさせておくべきでしょう。
そうすれば、おのずと必要な点数が見えてきます。
参考に大阪府と大阪市の工事ランクや必要評点がどのようになっているのかをご紹介します。
その他にも国の機関、独立行政法人等が発注者の案件も多くあるので、個別に工事ランクや必要評点等を確認してみてください。
◎「大阪府」における工事種別の等級区分及び工事金額
大阪府の独自の点数は地元点が100点、福祉点が8点、環境点が2点または4点となっており、経営事項審査の総合評定値(P点)に加算されます。
地元点は大阪府内に本店を置く地元業者に加算され、福祉点は障がい者の法定雇用率を達成している者に加算され、環境点は建設工事に関する事業活動について「エコアクショ21」「KES」「エコステージ」の認証を取得している業者に加算されます。
◎「大阪市」における工事種別の等級区分及び工事金額
大阪市の独自の点数は、障がい者の法定雇用率に達していない場合に10点マイナスするというものです。
その他、地域要件というものがあり、工事規模によって大阪市内に本店または支店を置いているかどうかで、入札参加の可否が決められます。
総合評定値(P点)算出の仕組みと評価項目ごとの特徴を理解する
目標設定によって必要な評点が見えてきたとしても、そもそも総合評定値(P点)がどのように算出されるのか(評価項目のウェイト)、評価項目ごとにどんな特徴があるのかを理解していなければ意味がありません。
評価項目ごとの細かな計算式まで覚えておく必要はありませんが、総合評定値(P点)にどれだけのインパクトがあるのかぐらいは理解しておく必要があるでしょう。
◎総合評定値(P点)は5つの評価項目によって算出される
完成工事高(X1)、自己資本・営業利益(X2)、経営・財務状況(Y)、技術力(Z)、社会的貢献度(W)の5項目で、点数の算出方法は次の計算式のとおりです。
総合評定値(P点)=0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)
各評価項目の素点を計算式にあてはめて算出するとP点の最低点・最高点は以下のようになります。
◎各評価項目の点数計算のイメージをつかむ
5つの評価項目の中でも完成工事高(X1)、自己資本・営業利益(X2)、技術力(Z)は、会社の規模が大きく影響するので、中小企業や個人事業主にとってはなかなか点数を伸ばしづらいかもしれません。一方で経営・財務状況(Y)と社会的貢献度(W)は、会社規模の影響は比較的少なく、取り組み次第で大きく点数を変えることができます。
(X1)年間平均完成工事高
業種別の完成工事高から経営規模がどの程度かを見られます。業種別の評価です。
建設業は時期・年度により繁閑差があるので、2年平均か3年平均かを選択できることになっています。
ある業種は2年平均、またある業種は3年平均というような個別選択はできません。
年間平均完成工事高を規定の表にあてはめて点数を算出します。
大阪府HP 「経営事項審査申請の手引き(P108参照)」
例)ある業種の年間平均完成工事高が1億3千万円の場合
「26×(年間平均完成工事高(千円))÷30,000+626」にあてはめると、素点で738点、P点に換算すると184点となります。
年間平均完成工事高は規模が大きい会社ほど有利ですが、規模が大きくなればなるほど、点数の伸びは鈍化します。
特に力を入れたい業種に他の業種の完成工事高を積み上げて点数を伸ばすという方法もあります。
(X2)自己資本額・平均利益額
会社の自己資本と営業利益から経営規模がどの程度かを見られます。
自己資本額は当期実績か2期平均かを選択します。
平均利益額は営業利益に減価償却費を繰り戻し、2期平均した数値です。
自己資本額と平均利益額をそれぞれ規定の表にあてはめて点数を算出します。
次に(自己資本額の点数+平均利益額の点数)÷2でX2の点数を算出します。
大阪府HP 「経営事項審査申請の手引き(P109、P110参照)」
例)自己資本額が3億6千万円、平均利益額が1800万円の場合
「27×(自己資本額(千円))÷100,000+720」にあてはめると、素点で817点となります。
「11×(平均利益額(千円))÷5,000+605」にあてはめると、素点で644点となります。
(817+644)÷2=730となり、P点に換算すると109点となります。
自己資本と営業利益の絶対額なので会社の規模が大きいほど有利な評価項目です。
(Z)技術職員数・元請完成工事高
業種別の技術職員数や保有資格、元請完成工事高からその業種の技術力が見られます。業種別の評価です。
技術職員は1人につき2業種まで申請することができ、1級技術者(監理技術者講習受講)には6点、1級技術者(監理技術者講習未受講)には5点、監理技術者補佐(1級技士補かつ主任技術者)には4点、基幹技能者・CCUSレベル4には3点、2級技術者・技能士1級・CCUSレベル3には2点、その他(実務経験者等)には1点が加算され、合計が技術職員数値になります。
受審業種以外の資格は評価対象にはなりません。
元請完成工事高は、年間平均完成工事高で選択した年数平均になります。
技術職員数値と年間平均元請完成工事高をそれぞれ規定の表にあてはめて点数を算出します。
次に(技術職員数の点数×0.8)+(年間平均元請完成工事高×0.2)でZ点を算出します。
大阪府HP 「経営事項審査申請の手引き(P111、P112参照)」
例)ある業種で技術職員数値が35、年間平均元請完成工事高が4,200万円の場合
「63×(技術職員数値)÷10+633」にあてはめると、素点で853点となります。
「27×(年間平均元請完成工事高(千円))÷10,000+610」にあてはめると、素点で723点となります。
(853×0.8)+(723×0.2)=826となり、P点に換算すると206点となります。
技術職員数・元請完成工事高いずれも会社の規模に比例して大きくなることが多いので、規模が大きい会社ほど有利な評価項目です。
(Y)経営・財務状況
会社の財務諸表から財務体質が健全かどうか、効率的に利益が出せているかどうか等が見られます。
営業キャッシュフローや利益剰余金のように絶対額(絶対的力量)を求められる項目もありますが、基本的に会社の規模が小さくても点数改善に取り組みやすいのが特徴です。
また、経営事項審査の対策にとどまらず、本質的な経営改善にも繋がるので計画的に取り組むべき評価項目とも言えるでしょう。
国土交通大臣の登録を受けた経営状況分析機関に財務諸表をはじめとする書類を提出して経営状況分析結果通知書を受け取ります。この通知書に分析結果・Y点が記載されています。
素点で0点~1595点、P点に換算すると0点~319点となります。
(W)社会性等
一部、会社規模が影響するような項目もありますが、大半は会社規模が小さくても取り組める項目になります。
項目はW1~W8に分かれており、それぞれ規定の表にあてはめて点数を算出します。
その後、以下の計算式にて算出した数値がW点の素点になります。
・(W1)担い手の育成確保
・(W2)営業継続
・(W3)防災活動への貢献
・(W4)法令遵守
・(W5)建設業経理
・(W6)研究開発
・(W7)建設機械
・(W8)国・機構認証、登録
(W1+W2+W3+W4+W5+W6+W7+W8)×10×175/200
素点で-1837点~2073点、P点に換算すると-275点~311点となります。
唯一マイナスの点数がつく可能性がある評価項目です。
評価項目への取り組みを決定し、スケジュールに落とし込む
目標が定まり必要な評点と評価項目ごとの点数計算式や特徴がわかれば、あとは点数を伸ばしたい評価項目とゼロから点数化したい評価項目を洗い出し、現実的に取り組みが可能かどうか、それが効果的かどうかを見極めます。
すぐに点数化できるものもあれば、かなり前から準備しなければ点数に結びつかないものもあります。
例えば、Z点(技術力)はP点に占める割合が大きいので、技術職員を増員して点数を伸ばしたいと考えたとします。
しかし、技術職員は審査基準日(大抵は決算日)以前に6ヵ月を超える恒常的雇用関係が確認できなければ人数にカウントされません。
このように直前に取り組んでも点数に結びつかない評価項目もあるので注意が必要です。
審査基準日から逆算して、取り組みをスケジューリングしていくようにしましょう。
最後に
経営事項審査においては、ただ闇雲に総合評定値(P点)を上げれば良いというものではありません。
点数なので上がれば上がるほど良いと考えがちですが、決してそんなことはありません。
大幅に点数が上がり、自社で対応できないほどの工事規模のランクになってしまっては本末転倒です。
目標設定の段階で、各官公庁のランクごとの工事規模や工期、案件数などしっかり情報収集し、自社に適したランクを狙っていくようにしましょう。
経営事項審査で思い通りの結果を出すことは、簡単ではなく、労力も相当にかかります。
公共工事を安定的に受注していきたいとお考えの方は、専門家である行政書士に相談してみることをおすすめします。
この記事の執筆者 金本 龍二(かねもと りゅうじ)|行政書士 アールエム行政書士事務所の代表・行政書士。事業会社で店舗開発に従事。ディベロッパーや建設業者との契約交渉・工事発注に数多く携わる。その後、行政書士事務所を開設。 建設業専門の事務所として 近畿圏内の知事許可、大臣許可、経営事項審査、建設キャリアアップシステムをサポート。 |
当事務所では、大阪府知事の建設業許可を中心に申請代理、その他経営事項審査や入札参加資格申請までサポート全般を承っております。建設キャリアアップシステムについても代行申請を全国対応で承っております。
ぜひお気軽にご相談ください。ご相談はお問合せフォームからお願いいたします。
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